Season | 万願寺とうがらし
モデル揃いの万願寺とうがらし
ビニールハウスの中で「セクシーでしょ?」と見せられた万願寺とうがらしに、魅せられた。肩の部分がキュッとくびれ、シュッと伸びた鮮やかな緑のボディは、肌に張りがあってツヤッとしている。
女性的でグラマラスな上、サイズも優・秀ランクに選別される13~23cmと高身長。人に喩えるなら、彼女たちはファッションショーのランウェイに立つモデルだ。中には、23cm以上になるまで収穫されず、傷ひとつない奇跡のボディに一段と磨きをかけた、パリコレの舞台でスポットライトを浴びるにふさわしい、スーパーモデル級の万願寺とうがらしも極まれに現れるという。
世界一の規模
そのように大きさと美しさが規格外の個体を極(きわみ)と名付け、プレミアムな万願寺とうがらしとして商品化を進めるのは、福知山市三和町にある[Season]。1日で300~400㎏、年間だと去年は52tもの万願寺とうがらしを出荷した、世界一の規模で万願寺とうがらしを栽培する農家さんだ。
ハウス・露地栽培ともに、手がける品種は万願寺とうがらしと同郷の舞鶴市から伝わった、大正生まれの万願寺甘とう。今や万願寺とうがらしは京都を代表する伝統野菜だというのに、その生産は全国展開。
だけど、万願寺甘とうの産地は舞鶴市と綾部市、そして[Season]が拠点を置く福知山市の一部地域のみ。歴史こそ京野菜の中ではおよそ100年と浅いものの、真の京野菜といえる。
「万」願成就
ハウス栽培の万願寺甘とうを「セクシーでしょ?」と紹介してくれたのは、[Season]代表の久保世智さん(42歳)。極は「こっそり大きく育った万(満)願成就なとうがらし」として、食用以外に縁起を担げそうな一面もPRしていきたいそうだ。というのも、万願寺とうがらしは葉っぱが揺れ、カサカサ触れるだけで傷ついてしまうほど、農家さん泣かせのデリケートな野菜。
久保さんたちの目を逃れて収穫時期を過ぎ、傷ひとつない状態で23cmを超す大きさへと育つ極に至っては、存在すること自体がまさに奇跡といっても過言ではない。
そもそも彼女たちの目線で考えると、万願寺とうがらしの目的は熟して落ちて種を蒔いて、次の世代を作ること。
それでなくても栽培が難しいのに、収穫のタイミングを逃してしまうことは、農家さん視点だとジレンマがありそうだけど。見逃されることを静かに祈って、人知れず大きく美しく育った極には、全てを許さずにいられない神聖なチカラが宿っていそうで、思わずコチラも祈りを捧げたくなった。
彼女たちの夏
[Season]を訪れたのは8月の朝。朝とはいえ、外は夏らしい暑さだったけど、ハウスの中で過ごす彼女たちは涼しげで、快適そうに見えた。
「万願寺とうがらしは太陽の光に弱いので、遮光率50%のネットを張り、実が焼けるのを防いでいます。また、ハウス内の室温と地中の温度も高すぎると、カルシウムが吸えなくなって腐敗の原因に。だから遮光ネットを活用しつつ、28℃以上になると換気扇も回すようにしています」。
もしも葉っぱが、髪だとしたら。風にそよぐ髪が肌に触れるだけで、彼女たちは肌荒れを起こしてしまう敏感肌。久保さんたち[Season]のスタッフは、彼女たち専属のヘアスタイリストやメイクアップアーティストのような役割も担っている。
ハウスはサロン
「株と株の間は40㎝とゆったり目。枝や葉っぱは混み合いすぎないようカットしています。枝や葉っぱが混み合うと、こすれて傷つくだけではなく、影ができて実に色ムラができたり、白い実になってしまうんですよ」。
微かに震える程度でサワサワ揺れる葉っぱに耳を澄ませば、収穫・出荷というショーの出番前に控え室で束の間リラックスする、彼女たちのお喋りが聞こえてきそうだ。そして、万願寺とうがらしにとってもスキンケアとボディケアに欠かせないのは、やはり水分。
美の源は、水
「万願寺とうがらしは1株あたり、1日6ℓの水が必要といわれていて、昔は朝にしっかり水やりしていました。だけど、どうもそうじゃない?と思い始め、産地で情報を共有し合って気が付いたんです。
土壌の水分量が如何に、一定で保てるかが大切なんだと。現在は40分に1回、自動で少量多潅水に切り替えています。土壌の水分量が多すぎたり、少なすぎたりすると万願寺とうがらしはストレスを感じて、実を極端に曲げてしまったり、そもそも実がつかないこともあるんです」。
健美で甘美
害虫や菌はもちろんのこと、極というスーパーモデルの道を閉ざすアクシデントも想定して、彼女たちのボディガードにも抜かりがない。
「枝が折れると水分を十分に確保できず、実がシワシワになるので、枝をしっかり誘引してあげることも大切です」。細心の注意を払いながら、大きく美しく、内側からヘルシーに育て上げられた万願寺甘とうの味は。
目を見張るほどのサイズ感なのに決して大味ではなく、甘い旨みが口の中いっぱいに溢れ出す格別のおいしさ。肉厚だと食感もタフになる印象だが、ジューシーなのでやわらかく、どこから食べてもしなやかな歯触りだ。
彼らの存在
[Season]では安定供給にもこだわって、露地栽培も行っている。ハウスの隣りにある露地で見せられた万願寺とうがらしにも、彼女たちと同じように魅せられた。露地育ちの万願寺甘とうは、実がガッシリしてムキムキと男性的なのだ。
旨みや食感、香りもしっかり目の印象で、ハウス育ちにはないおいしさが楽しめるから、収穫時期によって食べ比べてみるのも面白そうに思えた。「多品目少量栽培は性格上、合っていないんですよね。それならば、規模を大きくして栽培しよう!と9年前から万願寺とうがらしを作り始め、徐々に規模を拡大しました。
アイツらが作っているから買ってみよう!と思ってもらえるように、去年からは独自のサービスやクラウドファンディングなども始め、自分たちの農業を発信しています」。そう話す久保さんの想いは、[Season]のホームページにもたっぷりと込められている。彼らの想いに触れながら、五感でそのおいしさを感じ取れば、たちまちアナタもファンになるはず。
Photo by:Takashi Kuroyanagi
Writer:socko
Farmer:Season