ドライフルーツの使い方 フルーツティ編|香りで楽しむ贅沢な一杯
その日私は、入社4年目の後輩の取材に同行する予定になっていた。後輩が立てた取材プランを尊重しつつ取材が滞りなく運ぶサポートをするのが私の役目だ。
ロケ地はホテルの最上階にあるカフェレストラン。アフタヌーンティを囲みながら、女性料理家さんに取材するというものだ。
取材は万事、順調に進んだ。準備に余念のない後輩の仕事ぶりに感心していた時である。お店の方が我々のテーブルにやって来た。
「季節のフルーツティでございます」
そう言って前に差し置かれたティーカップの中を覗いてはっとした。カットされたドライフルーツが琥珀色の紅茶の中に沈んでいたのだ。
「わぁ……綺麗……」
思わず声が漏れる。お店の方は軽く会釈をしてこう続けた。
「こちらは、苺のドライフルーツを使用しております。香りをお楽しみください」
私たちのテーブルに花が咲いたかのような華やかで甘い苺の香りが漂った。
「香りだけでこんなにも華やかな気持ちになるんですね」
後輩がそう言うと料理家さんもにっこりと笑って大きく頷いた。
「こんなサービスがあるなんて知りませんでした」
私の言葉に
「勝手ながら今日はあらかじめ、私が苺のドライフルーツを使って最後に紅茶を出して欲しいとお店に申し出ていたんです」
料理家さんの粋なもてなしに私も後輩も感服してしまった。そしてなにより、自分にとってドライフルーツがあまりにも身近なものになっていたことを、1杯の紅茶から再確認したのであった。苺のドライフルーツを使ったフルーツティは、瑞々しい酸味と苺のもつ軽やかな甘み、その香りを嗅ぐだけで脳裏をよぎる苺の可憐さが相まって、非常に印象深い1杯だった。
私はその日以来、自宅でドライフルーツを使って紅茶を楽しむ習慣ができた。紅茶は癖のないダージリンを使い、その日の気分でドライフルーツを代えるようにしている。ドライフルーツの糖度がさっぱりとした紅茶に甘みを加えてくれる。
疲れている時はマンゴーやパイナップルのような南国の甘いフルーツを、朝食時など目を醒ましたい時は、少し苦みのある柑橘系のものを選ぶ。三者三様というやつだ。
「今日はどのドライフルーツにしようかな」
ちょっとしたことがきっかけで人生が豊かになっていく。
第七話:ドライフルーツの使い方 スイーツ作り編|焼き菓子が変わるひと工夫
ドライフルーツを紅茶に入れるという発想
ドライフルーツの使い方というと、そのまま食べる、ヨーグルトに入れるといった方法が真っ先に思い浮かびます。しかし、紅茶に浮かべるだけで完成するフルーツティは、想像以上に完成度の高い楽しみ方です。
ドライフルーツは水分が抜けている分、香りや甘みが凝縮されています。そのため、紅茶に加えると短時間でフルーツの風味が広がり、砂糖を入れなくても自然な甘みを感じられます。特別な技術や道具を必要とせず、気軽に取り入れられる点も魅力です。
フルーツティならではの魅力
フルーツティの最大の特徴は、味だけでなく香りを楽しめる点にあります。カップにドライフルーツを入れ、お湯を注いだ瞬間に立ち上る香りは、それだけで気分を切り替えてくれます。
特に苺や柑橘系のドライフルーツは、紅茶の湯気とともに華やかな香りを放ち、視覚的にも楽しませてくれます。琥珀色の紅茶に沈むドライフルーツの姿は美しく、アフタヌーンティのような特別感を日常に持ち込めるのも、フルーツティならではの魅力です。
基本の作り方はとてもシンプル
ドライフルーツティの作り方は非常に簡単です。ティーカップにドライフルーツを数切れ入れ、紅茶を注ぐだけ。それだけでフルーツティとして成立します。
紅茶は癖の少ないダージリンやアールグレイなどが合わせやすく、フルーツの香りを邪魔しません。ドライフルーツの量は多すぎず、まずは少量から試すのがおすすめです。時間が経つにつれて味や香りが変化するため、ゆっくりと楽しめます。
ドライフルーツ選びで変わる味わい
フルーツティの印象は、使うドライフルーツによって大きく変わります。
甘みをしっかり感じたいときには、マンゴーやパイナップルなどの南国フルーツが向いています。紅茶に自然な甘さが加わり、デザート感覚で楽しめる一杯になります。
一方、朝や気分を切り替えたいときには、柑橘系のドライフルーツがおすすめです。ほのかな苦みと酸味が紅茶に溶け込み、後味のすっきりした仕上がりになります。苺のドライフルーツは、甘みと酸味、香りのバランスが良く、初めてフルーツティを試す人にも取り入れやすい素材です。
日常に取り入れやすい楽しみ方
フルーツティは、特別な日のための飲み物ではありません。自宅で紅茶を淹れる習慣があれば、ドライフルーツを加えるだけで楽しめます。気分や体調に合わせてフルーツを選ぶことで、同じ紅茶でも全く違う表情を見せてくれます。
ほんの少しの工夫で、いつものティータイムが豊かになる。その体験こそが、ドライフルーツを使ったフルーツティの魅力です。
香りから始まる小さな変化
ドライフルーツを紅茶に入れるという行為は、とてもささやかなものです。しかし、その一杯がもたらす満足感は決して小さくありません。香りに包まれながら過ごす時間は、忙しい日常の中で心を緩めてくれます。
「今日はどのドライフルーツにしようか」。そんな問いかけが生まれるだけで、日々の暮らしは少しだけ豊かになります。フルーツティは、ドライフルーツの新しい入口として、ぜひ試してほしい使い方のひとつです。