ドライフルーツの使い方 スイーツ作り編|焼き菓子が変わるひと工夫
私が勤めている出版社の編集部では、お稽古ともサークルとも言える小さな同好会に所属している編集部員が多くいる。例えば、手芸や編み物が好きな女子によるハンドメイド同好会、写真好きな男性編集部員を筆頭に集う写真部、大学時代に登山部だった編集長を慕う仲間で構成される山登り会など、趣味に没頭する環境が非常に充実している。
私はこれまでどこか蚊帳の外からその様子を眺めているだけだったのだが、部署替えになったことを機に「お菓子作りサークル」に入ることになったのだ。後輩に誘われ半ば強制的に入部した。最初はホットケーキミックスでホットケーキを焼き、上にフルーツをトッピングし、市販のホイップクリームを乗せるだけの、なんとも敷居の低い会だと聞いていた。しかしどうやらそれは私を入部させるための罠だったようだ。
ある土曜日の午後、私と後輩部員3名はお菓子作りサークル代表の女子部員の家に集まっていた。着いてすぐ後輩からこんな発表があった。
「今日のお菓子作りはカップケーキです!」
私以外のメンバーが「わぁ」と嬉しそうに顔をほころばせる中、私はあからさまに怪訝な表情をしていたらしい。
「先輩、そんなイヤそうな顔しないでください。簡単ですからご安心を」
そう言いながら後輩はキッチンの奥から、色とりどりのドライフルーツが入ったジップバックを持って戻って来た。
「コレ……わざわざ?」
私が訊ねると後輩は嬉しそうに頷いた。
「はい。先輩の特集記事がドライフルーツだって知って、私もお菓子に使ってみたくて」
彼女はたくさんある中から、リンゴとバナナのドライフルーツをお皿に並べた。
「私は今日はこの2種類にします。みなさん、お好きなものをどうぞ」
私たちお菓子作りサークルのメンバーは皆それぞれに好きな果物のドライフルーツを選んだ。私がチョイスしたのはイチジク一択だ。
「1種類だけでいいんですか?こんなにあるから、選ばなきゃ損ですよ」
欲張りな後輩を横目に私はイチジクのドライフルーツを、もったりとしたカップケーキ生地の上にそっと乗せた。
カップケーキは180度に予熱したオーブンの中でしっかり膨らみ、甘い香りを漂わせながらしっとり焼きあがった。同時に、トッピングしたドライフルーツがそれぞれいい具合に生地に馴染み良いアクセントになっている。
粗熱が取れたところで、銘々好きな飲み物で試食会だ。私はイチジクのカップケーキとブラックコーヒーという組み合わせを選んだ。
「これ、もう一回焼いてさ、明日の土曜出勤の人たち用に差し入れにしない?」
私の提案はすぐに採用となった。
「先輩、珍しいこと言いますねぇ」
隣でクスクス笑う後輩を肘で小突いたのは言うまでもない。
第八話:ダイエットとドライフルーツ|太らない人が意識している選び方
ドライフルーツはお菓子作りと相性がいい
ドライフルーツは、そのまま食べても十分に完成度の高い食品ですが、スイーツ作りに使うことで、また違った表情を見せてくれます。水分が少なく、甘みが凝縮されているため、生のフルーツよりも扱いやすく、焼き菓子との相性も良好です。
お菓子作りというと、計量や工程の多さを想像して身構えてしまいがちですが、ドライフルーツを使うことで、工程を増やさずに仕上がりの印象を変えることができます。混ぜる、乗せる、それだけで成立する点が、スイーツ作り初心者にも取り入れやすい理由です。
焼き菓子に使うメリット
ドライフルーツを焼き菓子に使う最大のメリットは、焼成中に形が崩れにくいことです。生のフルーツは水分が多く、焼くことでベチャッとした食感になりがちですが、ドライフルーツは適度な水分量のため、生地になじみながらも存在感を保ってくれます。
また、加熱することでドライフルーツの香りが立ち、甘みがより際立ちます。砂糖を増やさなくても満足感のある味わいになるため、仕上がりが重くなりにくいのも特徴です。
フルーツ選びで変わる仕上がり
スイーツ作りに使うドライフルーツは、選ぶ果物によって印象が大きく変わります。
りんごやバナナのドライフルーツは、甘みが強く、焼き上がりが親しみやすい味になります。カップケーキやマフィンなど、日常的なおやつに向いた素材です。
一方、いちじくやレーズンのような果物は、コクと奥行きを加えてくれます。噛んだときの食感がアクセントになり、ブラックコーヒーや無糖の紅茶と合わせたくなる、大人向けの仕上がりになります。
トッピングとして使うという選択
ドライフルーツは、生地に混ぜ込むだけでなく、トッピングとして使うのもおすすめです。焼く前に生地の上に乗せることで、見た目に変化が生まれ、完成したときの満足感が高まります。
トッピングしたドライフルーツは、焼成中に生地と一体化しながらも、表面にしっかりと存在感を残します。どんなフルーツを使ったのかが一目で分かる点も、差し入れや手土産に向いている理由の一つです。
ドライフルーツがつなぐ場の空気
ドライフルーツを使ったスイーツ作りの面白さは、味だけにとどまりません。どのフルーツを選ぶか、何種類使うかといった選択が、その場の会話を自然に生み出します。
同じ生地を使っていても、選ぶドライフルーツによって仕上がりが変わるため、それぞれの個性が表れます。完成したお菓子を囲みながら感想を言い合う時間は、作る過程そのものを楽しませてくれます。
気負わず取り入れるのがコツ
ドライフルーツを使ったスイーツ作りに、特別な技術は必要ありません。市販のミックス粉を使っても、いつものレシピに少し加えるだけでも構いません。
大切なのは、完璧を目指さないことです。ドライフルーツは、それだけで味と存在感を持っています。気負わず、楽しみながら使うことで、スイーツ作りはもっと身近なものになります。
ドライフルーツは、お菓子作りを少しだけ前向きにしてくれる存在です。焼き上がる甘い香りとともに、日常の中に小さな楽しみを増やしてくれる使い方と言えるでしょう。